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東京高等裁判所 昭和27年(う)3326号 判決

被告人 石井三郎及び秋山信保

〔抄 録〕

被告人Aの弁護人の控訴の趣意第一点(訴因変更の手続を経ずして審判の請求を受けない事件について判決した違法)について。

本件起訴状に被告人に対する公訴事実として、被告人の職務関係について、被告人が労働事務官として、厚木労働基準監督署に労災係として勤務し、労働者災害補償保険に関する事務即ち、災害補償費請求書の受付、審査、支給等の職務に従事中との記載があるのに、原判決の認定した被告人の職務関係事項は被告人は、昭和二十二年九月より雇員として、翌二十三年九月より昭和二十五年二月十五日迄労働事務官として、厚木労働基準監督署に勤務し、安全衛生係りとして産業の安全災害の予防等の監督業務に従事していた外兼ねて昭和二十三年十月より昭和二十四年六月末頃迄は小島照男の上司として、昭和二十四年九月小島照男の転勤後は相被告人Bの下に於て夫々労災係りとして署長や相被告人Bを補佐し、労働者災害保険に関する災害保償請求書の受付、審査、支給の事務に従事していたものであると認定していること、従つて、起訴状記載のものと原審認定のものとの間に多少の相違あることは所論のとおりである。しかし、収賄罪は職務に関し、不法に報酬たる賄路を収受することによつて成立し、「職務に関し」とはその職務が専務であるか兼務であるかを問わないものと解すべきである。そして、右起訴状記載の職務関係事項と原判決認定の職務関係事項とは、専務と兼務との相違はあるにもせよ、事実の同一性を害する程度の変更はなく、極めて些少の変更にすぎないので、かかる場合には、特に訴因変更の手続を経ないで、事実の認定をしても被告人の防禦に実質的な不利益を及ぼすものとは認め難いのである。それ故、原審が訴因変更の手続を経ないで、前記の職務関係事項を認定したことは、何ら違法の廉なく、訴因変更の手続を経る必要があることを前提とする所論は採用できない。論旨は理由がない。

二、同第二点(訴訟手続の法令違反)について。

刑事訴訟法第二百九十三条第一項において、検察官に対し、当該事件に関し、事実及び法律の適用について意見の陳述すべきことを規定したのは、公益を代表する原告官たる立場において、訴訟の一方当事者として、弁論としてこれを為さしむる趣旨であり、これに対応して、同条第二項及び刑事訴訟規則第二百十一条によつて、他方当事者たる被告人及び弁護人に最終陳述権が与えられていること、原審第四回公判調書中、検察官は本件の法律適用の意見に関しては、「相当法条適用の上」と述べたに止まることはいずれも所論のとおりである。

しかし、右「相当法条適用の上」の「相当法条」とは、本件起訴状記載の収賄罪に関する罰条たる刑法第百九十七条第一項前段の規定を指すことが一見明瞭であり、本件のように法律適用については、起訴状記載の罰条を採用するをもつて足るが如き簡単な事案においては、右の検察官の法律適用に関する意見も亦刑事訴訟法第二百九十三条第一項の要請を充たすものということができるのである。蓋し、本件において、起訴状は被告人に適法に送達せられ、これに右罰条の記載があるので、被告人としては、その防禦権の行使に何ら支障がないものと認められるからである。従つて、論旨は理由がない。

註 本件は量刑不当にて破棄。

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